無題

ま白の紙の空間に

50あるひらがなの中から1文字だけ

慎重に選んで

ゆうくり

書いた

 

  紙 は 字 を 丸裸にする と 思った

 

  詩 は 人 を 丸裸にする とも 思った

 

ここに例文がありますから文節の間にスラッシュ入れて

できた人はさらに単語と語幹の間にもスラッシュを入れましょう

 

黒板のうえ

切り切り切り 切り刻まれりリリ

晒される解体ショー

 

もう/

この/

文/

は/

意味/

を/

成/

さ/

ない/

だろう/

 

 

ことり。〈ピー〉

(例文、息絶える)

 

 「ご臨終です。」

 

ああなんということ

 

ダ イ イ ン グ メ ッ セ エ ジ だ っ た と は

 

「お医者さま お医者様

 国語のお医者さま

 この文は切り離されても戻りますか

 貴方、そこの貴女、ああ誰でもいい

 この文はまだ、まだ

 生きているんです

 ええきっと生きている

 あなたの言葉と同じように

 わたしの言葉と同じように

 言葉は、言葉は…」

 

喜劇と悲劇は紙一重

お次は何を演じようか

 

 

奥歯の奥には山がある

噛み切ることの出来ない山脈がある

U字を描いて峰は連なり

空と大地はぴたりとくっついていた

 

意識が

 −−−−−−−−−−空間の隙間を探した

 

口中には宇宙があるようで

身体は大きくも小さくもあるようで

体の内と外はあべこべにあるようで

なんだか切なく

体の奥が きゅう となった

地球はまあるいはずなので

私のいる地球はまあるいはずなので

私の足裏延長上に

誰かの足裏があるのかもしれない

 

私の立っている地球はまるいはずなので

私が横断歩道の白線を踏み外さないように歩くときも

私の足裏延長上に

誰かの足裏とピタリ同時に着地するタイミングが

ないとは言えない

 

私の歩いている地球はまあるいはずなので

私の足裏延長上に必ず誰かの足裏も影法師みたいに着いて歩いていたら

私がもしあなたの暮らす街に行ったとしても

私たちは永久に巡り会えないのか

 

前略、私の足裏延長上にいる誰か様

できればあなたが幸せに暮らしていたら私はとても幸いです

あなたの住まう世界が平和でありますようにと

ただただ、マグマの向こう側から

私は願うことしかできません

足裏より。

愛を込めて。

早々

 

私はそんなことを考えながら

今日も赤信号が変わるのを待つべく

大きく彎曲する地の面の

任意の点Pに、足をつけたり離したりしている。

憧憬

 

頭の中に言葉があって

つまらないことを考えて

 

そんなことの為に言葉が使われて

申し訳ない気持ちになりながら

「あなたはもっと美しいから」と、無気力に謝る。

 

記号の源祖なんて正直どうでもいい。

今ある言葉すら美しく使えない私は

それでも

白い壁のへこみを見つめて へこみ と言葉が浮かぶ。

 

ただ、それだけのことなのだけど―(endless)

 

 

点・線・面・わたし

あるところに、点がありました。

もうひとあるところに、点がありました。

つなげてみたら

線が出来ました。

 

そんな具合で

もうひとあるところに、線がありました。

もうひとあるところにも、線がありました。

先ほどできた線と、線と、線の端っこを

つなげてみたら

面が出来ました。

 

点と点とが繋がって線ができ 線と線とが集まって面ができ

面と面とが集まって「わたし」の表面ができ 「わたし」という塊ができました。

 

そこに時間が合わさって

今こうして私は考えています。

自分の表面について。

 

 

あるところに、点がありました。

すべてはそこから始まりました。

 

音の名

静寂という名の音も、探せば多分、あるんじゃないか。

十進法小劇場

1と共に朝寝坊をし
2と共に散歩に出る

3の顔をあらってやり
4を風呂に入れてやる

5と音楽を語るうち、8部音符にちょっと似てるよねとからかった
それを聞いて頑なに6は、逆立ちをしてくれない

7はまだ遊びたいと駄々をこね
8はもう帰りたいと駄々をこね

9は0といつか共に生きようと誓い合う

十進法小劇場。

かけがえのない 文字たちよ

かけがえのない 文字たちよ

こんな詩のために 君らは集められたか

全くもって、惨めでないか

 

数かぎりある 文字たちよ

君らは選ばれし精鋭よ

 

それなのに 紙にぴたりと張り付いて

貼り付けの刑にされてるようで

 

ここに集いし 文字たちは

一遍の物語を編みあげる

 

縦糸 横糸 きちんと並んで

さて、美しい編み模様はできたのだろうか

 主は適した指揮者だろうか

 

かけがえのない この文字たちよ

どうか、自由にお生きください

 

 身勝手に私が呼び寄せたけど

ここに留まる理由は何もない

 

かけがえのない 文字たちよ

とはいえ、私は謝らない

君たちがいてくれて、とても良かったから

 

 

白箱

 

ぬるくなった湯船につかって

上を向いて

蛍光灯の照らす清潔そうな天井を眺めながらいると

ふと湯の中に体を浸してみたくなった。

 

最初に腰の辺りまである髪をおろし

仰向けに倒れて後頭部をひたりと濡らした。

 

親指で耳をとじながら 水が頬骨まできたところでそうしていると

ゆっくりと呼吸する何者かの音と

髪に混じった空気の

 

ぽこん ぽこおん

 

と弾ける音が聞こえてきて

ひどく

 

ああ 生きている

 

と感じてきた。

 

そのまま今度は小指で鼻をふさいで目をつむり

全ての感覚を水に付けると

私は 地につかず

天にもつかず

宙を漂い

長い髪が鼻の頭の上を

さらさら舞った。

 

ここがどこだったか

自分は何者だったかの判別がつかなくなってきたところで

慌てて顔を出し

深く大きく、息を吸った。

 

白く淡い小さな天井がぬっと現れ、

私を包むように迎え入れた。

水を得て

 

 

お風呂の排水溝

 

水道 シャワー 水たまり

 

時々ノイズ

 

魚がはねる。

 

 

水が溢れだしてくる

 

水は足の裏から湧き出るように溢れ出し

 

仕舞いに顔までとっぷり上がる

 

女は気を失ったように目をつむり

 

水の流れに逆らうことなく

 

頭が消える

 

漂う 魚を想う

 

一匹の魚

 

鱗が光った —

 

――胎児の記憶

 

 

目が 、

 

人の目が

 

見開く

 

何かを思い出す

 

 

ノイズ

 

 

水の中から見えるひかり

 

金魚が泳ぐ

 

美しい魚が横切る

 

水が引いて

 

女が鳴いて現る。

ツモリテ

 

 

 

 

 

つ  も  り  積  も  り  つ   つ  も  り  つ  も  り  つ

 

つ  も  り  つ  も  り  つ   もり  つ  も  り  つ

 

つ   も   り   つ   も   り   て  森  つ  も  り  て

 

積  も  り  つ  も  り  つ  つ  も  り  つ  も  り

 

 

 

 

 

 

hi ne mo su

ひねもす

 

   何もなさずに

   壁にもたれ

   今日は日差しの温かいと

   気の付くころには

   太陽の低く、低く、

   もうすぐ地平に隠れてしまう

 

その傍にて

我は、我を忘る

 

   高く、高く

   昇つた空に

   薄める水色をより一層薄め

   雲の薄いレースのやうに

   なびいて隙間の青を見せる

 

その傍にて

我は、我を忘る

 

 

ひねもす

 

その傍にて

我は、我を忘る

 

 

 

猫も 杓子も

 

我輩は、我輩である

 

名前くらい、

自分でつける

海底の音

   。

今日が昨日で明日が今日

終電の隅で

思い出し笑いする人を見た

 

      - - - --------- 23:58 ----- - - -

 

今日何があったかを考える

明日が次に 停車する

 

 

sava

世界の終わりと始まりが 湖面に写るとき

2羽の水鳥は何事もなかったようにダンスする

 

ばたついた水滴が滴る先は  青く正しい 方眼紙

 

光の屈折に惑わされて

大きく過信した湖底の砂利たちは

空が同心円にたなびくのを 光悦に酔いしれて

我が身の存在を疑わない

 

さて、彼らは愚か あるいは否か

 

どちらでもあり、どちらでもないと わたしは答えよう

 

全知は方眼紙の中に

浸してみるのも良いだろう

 

 

生きたこと

生きることは 死ぬことで

死んだことは 生きたこと

四行五言詩

まちのおと 街の音

むれのそと 群の外

せきのひと 席の人

よこのはと 横の鳩

 

すなのあと 砂の後

ときのしと 時の使途

くにのさと 国の郷

とものもと 友の元

 

つねのこと 常の事

つきのまと 月の的

やみのいと 闇の糸

そらをふと 空をふと

カシューナッツ

カシューナッツのその先に

 

何があるかは 知らないが

 

僕がその種を砕くたんび

 

青の気持ちと白の気持ちが 僕に同居してくることなんて

 

君に 分かってたまろうか

君が 分かってたまろうか

 

分からぬ君が すきなのに

静の音

深夜ー

 

重たげな瞼に連れられて ベットに潜り込むと

 

静なる音が辺りを漂う

 

 

窓の外から

車のタイヤがアスファルトを蹴った

 

耳の奥で

我が身の心蔵がのたりのたりと波打っている

 

外気はだんだんシェルターの中で籠ったような響き方をし

 

上の階の住人が 水道の蛇口を捻ったらしい

 

遠くの列車は

踏切を

渡った

 

瞼の裏に

 

静かな光が一筋流れた

 

 

 

 

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