白箱

 

ぬるくなった湯船につかって

上を向いて

蛍光灯の照らす清潔そうな天井を眺めながらいると

ふと湯の中に体を浸してみたくなった。

 

最初に腰の辺りまである髪をおろし

仰向けに倒れて後頭部をひたりと濡らした。

 

親指で耳をとじながら 水が頬骨まできたところでそうしていると

ゆっくりと呼吸する何者かの音と

髪に混じった空気の

 

ぽこん ぽこおん

 

と弾ける音が聞こえてきて

ひどく

 

ああ 生きている

 

と感じてきた。

 

そのまま今度は小指で鼻をふさいで目をつむり

全ての感覚を水に付けると

私は 地につかず

天にもつかず

宙を漂い

長い髪が鼻の頭の上を

さらさら舞った。

 

ここがどこだったか

自分は何者だったかの判別がつかなくなってきたところで

慌てて顔を出し

深く大きく、息を吸った。

 

白く淡い小さな天井がぬっと現れ、

私を包むように迎え入れた。