音採集#2

【2010年進級制作展 池田良二賞】

文庫本(川端康成「雪国」新潮社)、瓶、インク、方眼紙

 

「音採集」

 

文字を紙から剥離する行為は、私の中で、文字の呪縛を解き放ち、原始の姿に戻す儀式である。

本に納められた音を想って、一文字一文字削り取っていく。

剥離する文字を物語の中で繰り広げられた人々の会話に絞ったのは、言葉が音であったという事実を顕著に表すと考えたからである。

彼らの間で交わされた言葉は、その場の空気に溶け込んでいたはずの音だった。

 

 文字からの解放

 音への昇華

 空気に溶け込んだそれらを青いインクで染め上げ

 方眼の網に引っ掛ける

 瓶に納められたのは

 脱皮した文字の残骸、又は、音の化身か

 

 青く透き通った方眼紙の空間で

 小説中舞台での音が鳴り響く

 

 

  しまむらさあん しまむらさあん

  ああ見えない

  しまむらさあん

 

 

著者の頭のなかで響いたであろう「音」が拾い上げられ、「文字」として紙に封じ込められた。

それが読者の手元に渡ったとき、今度は読者の頭の中で「文字」が「音」として還元し再現される。

読者(私)の真新しい感情も織り込まれながら。

 

ヒトは色んなものに規則を当てはめて、時に自らをも呪縛する。

文字は多くの呪縛要素を孕んでいる。

欲深い人間は、空気に溶け込むはずであったその一瞬に形をつけて、手元に残しておこうとした。

元は音でしかなかった声をコトバという形に当てはめ、コトバに絵を当てはめて文字を作った。

言語が呪縛の連鎖で成り立っていることを思い出す。

元はシンプルな、ただの音だった。

 

私のこの儀式的行為は、それら呪縛を解放し、絡み合った様々を一枚一枚剥ぎ取る試みなのである。

 

採取した音は全て「ひらがな」の形を使って表記した。

実際には発音されない撥音便(小さい「っ」の音)は表記しなかった。

物語の流れであったり、私の感情であったり、その時のイメージに従って、日本語の単音たちを方眼紙に絡ませた。